今回は、情報の非対称性について考えてみます。
聞き慣れない言葉ですが、重要な概念になりますのでぜひお付き合いください。
「情報の非対称性」とは何か?
情報の非対称性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 ナビゲーションに移動検索に移動
情報の非対称性(じょうほうのひたいしょうせい、英: information asymmetry)は、市場における各取引主体が保有する情報に差があるときの、その不均等な情報構造である。「売り手」と「買い手」の間において、「売り手」のみが専門知識と情報を有し、「買い手」はそれを知らないというように、双方で情報と知識の共有ができていない状態のことを指す。情報の非対称性があるとき、一般に市場の失敗が生じパレート効率的な結果が実現できなくなる。
研究史
情報の非対称性を最初に指摘したのは、アメリカの理論経済学者ケネス・アローである。アローは1963年にアメリカの経済学会誌「アメリカン・エコノミック・レビュー」において「Uncertainty and the Welfare Economics of Medical Care(医療の不確実性と厚生経済学)」という論文を発表し、医者と患者との間にある情報の非対称性が、医療保険の効率的運用を阻害するという現象を指摘した。
情報の非対称性という用語は、アメリカの理論経済学者ジョージ・アカロフが1970年に発表した論文 “The Market for Lemons: Quality Uncertainty and the Market Mechanism” で初めて登場した。
この論文は中古車市場を例に、情報の非対称性が市場にもたらす影響を論じたものである。買い手が「欠点のある商品」と「欠点のない商品」を区別しづらい中古車市場では、良質の商品であっても他の商品と同じ低い平均価値をつけられ、良質な中古車は市場に流通しなくなる傾向があることを指摘し、これを「売り手」と「買い手」の間における情報の非対称性が存在する(売り手のみが欠点を知り、買い手の側は欠点を知る術がない)環境一般の問題とした。なお、アメリカの中古車業界で不良中古車を指す隠語が「レモン」であるため、このような市場はレモン市場と呼ばれるようになった。
また、プリンシパル=エージェント関係において情報の非対称性が存在すると、エージェンシー・スラックと呼ばれるモラル・ハザードが発生する。
商品の取引における情報の非対称性
市場では「売り手」と「買い手」が対峙しているが、一般には売り手がほぼ一方的に情報を保有し、買い手は十分の情報を保有できないため、ここにも大きな格差がある。例えばある商品を取引する状況を想定したとき、売り手は商品の品質に関する豊富な情報を所持している。
他方、買い手は商品の品質に関する情報をほとんど保有しておらず、売り手からの説明に依存するしかない。しかし、売り手には商品の正しい品質を買い手に伝えるインセンティブがないため、買い手は商品の品質に関する情報について購入するまで完全には知りえない。
このように、取引・交換の参加者間で保有情報が対等ではなく、あるグループが「情報の優位者」に、他方が「情報劣位者」になり、双方で情報を共有できていない状況(情報分布にばらつきが生じている状況)が、情報の非対称性である。
「隠された情報」と「隠された行動」
情報の非対称性はしばしば、それが「取引の開始前に存在する、情報の非対称性」であるのか、それとも「取引の開始後に存在する、情報の非対称性」であるのかに、区別される。
「取引の開始前に存在する情報の非対称性」というのは、例えば中古車市場における中古車の品質情報の格差が挙げられる。買い手が知らない情報を売り手が知っているという点から、このような情報は「隠された情報」と呼ばれている。
一方、「取引の開始後に存在する情報の非対称性」というのは、例えば自動車保険市場を考えたとき、自動車保険に加入しようとしている人は自分の運転能力を知っているが、保険会社はその人の運転能力や事故歴などをあまり把握できない。このとき、保険の加入者の行動が保険会社にとって完全には明らかではないという意味で、加入者の行動は「隠された行動」と呼ばれている。契約の履行は加入者の行動に起因することになるが、加入者の行動については保険会社が「情報劣位者」となる。
情報の非対称性を「隠された情報」と「隠された行動」に区別する理由は、引き起こされる問題の性質が異なるためである。経済学の世界では一般に、「隠された情報」は市場において逆選抜の原因になり、「隠された行動」はモラル・ハザードを引き起こすとされている。
情報の非対称性への対策
情報の非対称性への対策として、以下の方法が挙げられる。シグナリング (signaling, market signaling) 情報優位者が商品の品質に関する情報(シグナル)を情報劣位者に間接、直接に提示し、情報の格差を縮小する。[1] たとえば、労働市場において労働者が資格を取得して自分の優秀さを示すことなどが挙げられる。 スクリーニング (screening, market screening) 情報劣位者が、情報優位者にいくつかの案を示し、その選択を通して情報を開示させる。[2] 例えば自動車保険会社が走行距離に応じた複数の割引保険を用意し、保険に加入しようとしている人にどの保険を選択するかを決定させる方法が挙げられる。これによって保険会社は、加入者の自動車利用頻度を確認できる。 入学試験や入社試験などを行って人材の質を確保する方法は、スクリーニングにおける案が1つだけのケースと考えられる。
脚注
Wikipediaより https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%83%85%E5%A0%B1%E3%81%AE%E9%9D%9E%E5%AF%BE%E7%A7%B0%E6%80%A7
情報の非対称性というのは、主に経済学から出てきた考え方になります。
売り手と買い手の間の情報に差がある状態のことをいい、これが著しいと、市場における適切な売買がなされない状態です。
情報の非対称性はどういうところに起こるのか
情報の非対称性は、実際にはあらゆる分野で起こりうる問題です。
歴史的にみても、一般民衆と政治指導部の間には情報の格差が存在します。
情報を握っている一部の人間と、情報を持たない人々、これが支配と被支配の関係の本質だ、とさえ言えるでしょう。
一般的に、商品を売り買いする企業活動においても、この情報の非対称性は存在します。
過去の時代においては、特定の商品についての情報は、よほどの関心を持っている人や専門家でない限りは情報を得ることが難しく、商品に対する知識も薄くなるのが当然でした。
企業はこれを利用し、情報を上手く利用することで顧客を操作することも可能でした。
いわば、ものをやりとりしたり、人と人との関係が生じるところには、どうしても情報のやりとりが生じるので、その情報のやりとりが生じるあらゆる場面において、情報の非対称性は起こりうることになります。
情報と民主主義
民主主義においては、マスメディアの存在が大きな意味を持ちます。
なぜかと言えば、広く意見を集め、議論して多数決にて決定する、というプロセスをとる以上、情報を知らないと人々は自らの意見を決めることが難しいからです。
なので、幅広く、公平に情報は伝達されないと、民主主義は機能しません。
これは、都合の良い情報も悪い情報も、どちらについてもです。
なお、
なるべく都合の悪い情報は隠したくなるのが人間です。
それがもし政治のレベルで行われていたら、一体どうなりますか?
一部の都合の良いことだけがまかり通ることになります。
これは不正が横行することにつながってしまいます。
そのため、民主主義という仕組みにおいては、とりわけ情報がきちんと伝えられているのかが大事になります。
マスメディアがベルリンの壁を崩壊させた
ベルリンの壁、というのを知らない世代も多いかもしれませんが…
東西冷戦の時代に、ドイツのベルリンに築かれた壁のことです。
ベルリンは第二次世界大戦が終わって以後、ドイツが東西に分裂した時に、東ドイツの領域にありながら、西半分は西側勢力の管理下にあり、東半分は東側勢力の管理下にある、という飛び地になっていました。
西側勢力の管理地域に逃れればそこから西側諸国へ移動できてしまう状態を防ぐために、東側勢力が建設したのがベルリンの壁です。
この壁には武装した兵士がいて、壁を乗り越えようとすると射殺されてしまう、という、いま考えると恐ろしいものでした。
ベルリンの壁は、東西冷戦の象徴でした。
1989年、東ドイツ政府が、旅行及び国外移住の大幅な規制緩和を発表し、東ドイツ国民は国境を自由に移動することができるようになりました。
これをもって、東ベルリンにいた市民は西ベルリンに殺到します。
これがベルリンの壁の崩壊です。
この歴史的事件に貢献したのは、東ドイツに普及したマスメディアでした(衛星テレビが登場したことで、それにアクセスすることにより、東側の人々は西側の情報を得ることができた)
当時、東側諸国では民衆は西側の情報にアクセスすることができない状態でした。ところが、テクノロジーが進歩したことによって、人々は西側の情報を手に入れられるようになりました。
その結果、民衆の意識が変わり、東ドイツの政治を変え、結果としてベルリンの壁が崩壊しました。
これは当時、東ドイツ以外の東側の国々で同時期に起きていたことです。
東側諸国が経済的に行き詰まっていく中で、ソビエト連邦においてペレストロイカが進められたことによる民主化のうねりが起きたことも大きく作用しました。
マスメディア経由の情報が民衆の意識を変えたという側面もあります。
これらは、東側諸国において、いろんなものが変わらざるを得ないところまできていた、ということでもあります。
つまり、ベルリンの壁の崩壊も、情報の非対称性が崩れたことによって起きた出来事です。
インターネットは誰でも情報を手に入れられるツール
インターネットは元々、学術研究機関同士を繋ぐネットワークでした。
これが、技術的に発展していく中で、軍用ネットワークなどに接続されるようになり、やがて一般にも普及した、という流れです。
1990年代半ばごろから、インターネットは商用で利用されるようになります。
このインターネットの登場は、説明するまでもなく、パソコンとネットワーク接続環境さえあれば世界中の情報にアクセスできる状況を作り出しました。
その後の発展は、日常生活をも変えています。
まとめ 情報の非対称性がなくなった世界
インターネットの登場により、もはや情報を隠すということがしにくくなりました。
それまで情報の非対称性に守られていたあらゆるものの実態について、人々が自ら情報を得てその裏側まで知ることができるようになってしまいました。
情報を隠すことが困難になりました。
情報を得られることで利便性が向上したという面もあり、一方で商売がやりにくくなった、という面もあります。
政治についても、情報にアクセスしやすくなった反面、今度は嘘の情報に人々が惑わされたりする事態も発生しています。
ですが、もはやこの情報の非対称性はなくなっていく方向で世の中が動いていきます。
ヒエラルキー型の組織が柔軟さを失うことで変化に対応できず、機能しなくなりつつあり、ネットワークを介した分散型の組織である方が機能するような世界に移っています。
この流れは、今後の働き方にも大きく影響を及ぼします。
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