日本的雇用の限界 まずは人材の適正評価から

2020-07-11

(日本経済新聞より転載)

日本型雇用改革の論点(下)企業越えた人材評価基準を 小熊英二・慶応義塾大学教授

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO59450760S0A520C2KE8000/

要点

  • 日本企業は、一つ一つがいわば「独立王国」となっていて、自国でしか通用しない通貨や文化に支配されている
  • 雇用についても同様で、流動性が低いため企業内労働市場の中での異動が行われる
  • 日本企業の人材に対する方針は社内育成、新卒採用、長期雇用、社内人事異動
  • 企業横断的な人材評価が行われないことが、経済の仕組みを改革するときの妨げとなり、日本の停滞を招いた原因となった
  • (人材面だけでなく)日本企業が「独立王国」である仕組みを変えられないまま今現在まできてしまった中で、根本を変えないまま問題の多い方法でその場をしのいできてしまったことが社会問題を深くしている
  • 日本型雇用のメリットは、比較的学歴の低い現場労働者の技能蓄積、現場労働者の士気が高くなること(勤続年数と社内経験を重ねれば、修士号や博士号がなくとも、賃金の上昇が見込めた)
  • 近年、日本的雇用は、専門能力や知的産業が育ちにくい、年功賃金のコストがかさむ、人材の流動性がない、新卒一括採用の手間がかかる、など欠点が目立ってきた
  • 適切な人材評価ができない状況は、結果として、日本型雇用の基本形を変えないまま賃金コストを削ることにつながった
  • それは具体的には、非正規雇用の増大、人事考課(成果主義を含む)による昇給抑制、子会社出向などの形で表れた
  • 昇給が限定されるので、従業員は残業を増やそうとする(長時間労働)、労働組合は雇用維持のために社内人事異動や単身赴任を容認、これらがワークライフバランスの問題や、女性の進出の障害になっている
  • 高度な学歴が正当に評価されないので、大学院進学率が低下するばかりか、学習への意欲もなくなる(日本は世界的に低学歴化している)
  • 現状を改善するには、(企業という独立王国内ではない)人材の正当な評価から始めることではないだろうか?

考察

日本的経営や日本的雇用がしっかりと機能した時代は、いわば馬(労働者)に目隠しをしてただ走らせるような状態だったのだと思います。

それは、余計なことを考えさせない、ということもありますが、余計なことを考えている余裕も能力もなかった、ということも含まれると思います。

システムとして、馬が走れる競馬場を作り、目隠しされた馬はそこで一生懸命に走る、というイメージです。

先進国に追いつくため、という目的に対して、このシステムは有効に機能しました。

それは、その時代の産業が製造業をメインとする産業で成り立っていて、それに対して有効に作用するシステムだったからです。

いわば、工場で働くために設計された教育システムや社会システムです。

効率的に工場で働く人材を送り出す学校と、それを受け入れる社会だったと言えます。

ですが、経済発展し、経済の状況も製造業から情報産業へと変わっていく中で、システムの根本を変えらなかった。

既得権益層が存在しており、その層を元に社会が成り立っていたこと、企業のあり方が流動化を拒むシステムになっていたのが原因だと思われます。

そんな中で、システムは変わらないまま、走る馬は急に目隠しを外されて「さあ自由に走れ」と言い渡される状況が訪れた。

これはうまく走れる馬には問題ないですが、そうでない馬には辛いこと。

経済の仕組みやルールをうまく変えることができないまま、小手先の変更を加え続けた結果、創造性を伴う新しい形の高度な情報産業に乗り遅れることにもなり、稼ぐ力を失うことにもなり、労働者の生活もよくならない、経済全体も落ち込み続ける、問題だけは大きくなり続ける、という状況を生んでしまった。

いま、仕組みを変えないと、日本社会も個人ももっと大きな損失を被ることになりかねないでしょう。

まずは、怖くても素直に自らの状況、現在の能力を見つめ、把握すること。そして、その次は、問題点を洗い出すこと。そして、その問題点を解決するための方法を、今の自らの能力から考えること。

問題解決という目標から逆算してスケジュールを立て、資源(時間も含む)を配分していくこと。

やることはとてもシンプルです。

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