【生きるのに疲れたときの1冊】人間交差点|矢島正雄・弘兼憲史 著

2020-08-11

人間交差点

『人間交差点』は、1980年から1990年まで、小学館ビックコミックオリジナルに掲載されたマンガです。

1話完結の物語で、エピソードは全232話あります。

内容は人間の生きる苦悩についてであり、人間模様、と言うべき話ばかりです。

男女の恋愛のもつれから殺人を犯してしまった受刑者や、無実の罪を着せられた人の話、あるいは自らの保身のために他人を貶めてしまったことに苦悩する人間の姿が描かれていることが多い印象です。

しかも、この作品中では、そうした苦悩を抱えた人たちにも、子どもがいたりします。

無垢な存在としての子どもが登場することにより、人間の苦悩がまた違う意味で、そして深く描かれていくような側面もあります。

それにしても、死にまつわる話が多い

このマンガの特徴でもあるのでしょうが、やたらと死にまつわる話ばかりが登場します。

生きることとは何か、死ぬこととは何か、これらの本質的な部分に迫った結果なのかもしれませんが、ほぼ生きることの喜び、という観点からは描かれることが無いように思います。

むしろ、生きていく中でなんらかの心の傷を抱え、それを乗り越えようとする過程で、死の問題が出てくる、というのがこの作品を見て思う感想です。

まるで、罪の意識から最後は死を選ぶ登場人物が出てくる夏目漱石の小説『こころ』における先生のように、人としての贖罪のために、自らの死をもって償う、という展開が多いような気がします。

生きていくとはどういうことなのだろう?

誰にでも生きていく中で経験することかもしれませんが、自分を守るために、他人を傷つけてしまうことがあります。

けれど、そもそもなぜそんなことをしてしまうのか?

社会に出ると、いつの間にか誰かの失敗をほくそ笑んだり、他人の不幸を喜んでしまったり、自らの利益のために誰かの邪魔をしながらそれを見て見ぬふりをしたりすることもあります。

それが積もっていく中で、言われのない理不尽やしわ寄せを受ける人が必ずいるものなのですが、確率が低くても誰かがその被害を受けています。

そして、その光景を目の当たりにしながらも、自分に害が及ばないところから「自分に災いが及ばないでよかった」と、それを見て見ぬフリをしてしまう、と言うのが現実の姿だと思います。

この作品は、そんな苦しみをえぐり出そうとしているのかもしれません。

純粋な心だけでは生きていくことは難しい、むしろ、純粋さを追い求めすぎることによって周囲との軋轢が生まれる、のだとすれば、人間はそもそも汚れたままの方がいいのだろうか?

生きるとはどういうことなのだろう?そんなことを自問自答せずにはいられない、大人向けの作品です。

強烈な理不尽さや不幸に遭ってしまったとき、一番心を慰めてくれるのは、むしろこうした「答えが無い」問題の投げかけをしてくれる作品なのかもしれません。

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