今回は、「気まぐれオレンジ☆ロード」をご紹介します。
ラブコメの王道を行く、80年代を代表する作品です。
きまぐれオレンジ☆ロードとは?
きまぐれオレンジ☆ロードは、週刊少年ジャンプにおいて1984年から1987年まで連載されたラブコメマンガです。
作者はまつもと泉(女性ではなく男性)です。
なお「きまぐれ」という題名の由来は、ヒロインの鮎川まどかの性格になぞらえて命名されたようです(コミックス1巻の表紙カバーにある作者のコメントにはそういった旨のコメントが記載されています)。
「オレンジ」については不明ですが、甘酸っぱさ?を青春のそれとかけているのかと思います(推測ですが)
あらすじ
この物語のあらすじは、超能力を持つ春日家がとある街に引っ越してくるところから始まります。
主人公の春日恭介は、転入した中学校で謎めいたクラスメイトの鮎川まどかと出会い、恋に落ちます。
鮎川と仲が良い後輩の檜山ひかると春日は最初、トラブルになりますが、体育館の隅から超能力でバスケットボールをシュートした姿を偶然見たひかるは、春日に恋します。
そして、春日、まどか、ひかるの3人の付かず離れずの奇妙な三角関係が始まります。
途中、学年が上がって高校生になったり、成績が悪くて留年しそうになったり、春日に横恋慕するキャラクターが登場したりするなど、さまざまな出来事が起こります。
それらを乗り越えながら、3人の恋模様が展開されていきます。
中高生のラブコメ
この作品の特徴として、消費生活を謳歌していることにあります。
作品に登場する主人公らが通う学校は中高大一貫校で、テストで落第することさえなければ身分が保証されている状況にあります。
その中において、物語の主軸は、主人公である春日恭介とヒロインらの恋の行方にあり、彼らはデートを頻繁に繰り返していきます。
主人公とヒロインの1人である檜山ひかるの恋愛を、檜山の先輩である鮎川まどかがサポートしている関係にありますが、実際には、主人公の春日は鮎川に惹かれており、一方で檜山との関係も維持している、というどっちつかずの態度を取り続けていきます。
そして、春日も鮎川も檜山を傷つけないがために、いわば檜山の知らぬところでお互いに惹かれ合ってはいないことにしているけれども、本当は春日の本命は鮎川であり、鮎川もまた檜山との友情は維持しつつも檜山から春日を奪う、という形になります。
これは、檜山だけが何も知らないことになっていて、周囲も手を回してその状態を維持している、という、なんとも不思議な状態です。
最終話で春日と鮎川は結ばれている(気まぐれな性格の鮎川は、ここでも100パーセント春日を愛しているという態度は取らない)わけですが、恋愛において敗者となった檜山の視点から見れば、ずるずると引き延ばされて捨てられただけ、とも見える可哀想な話とも言えます。
タイトルにもなっている、この「きまぐれ」であることが、主要登場人物の1名を傷つけていくことになります。
なお、その事実について、結ばれた2人に自覚があるかどうかについては、不明です(檜山に悪いことをした、という意識はあるように思われる)
バブルに向かっていく時代
このマンガが連載されていた頃の時代は、まさに日本が史上空前の好景気へと突入していく時期です。
作品中には、貧しさというものは一切登場しません(財布を失くして街を彷徨う、という話は出てくるが)
モノが溢れ、食べるものにも困らず、主人公たちはテストを乗り切ることだけクリアしていれば、あとは極端な話、リゾートに行ったり、デートに出かけたり、夜の町にちょっと背伸びをしてみたりしている。
悩みといえば意中の相手との恋愛のことがメインで、他のことはあまり不自由しない(しかも、進路については本人らも迷っているが、基本的に困る要素はない)
これって、夢のような状態ですよね…
当時の世の中にも面倒な問題や、困ったことが今と同じように存在していたはずですが、それを差し引いても、とても理想的な状態だといえます。
前回取り上げたタッチとは話の傾向が違いますが、満ち足りた青春(物質的に悲惨な状態にはなく、かなり余裕がある状態での贅沢な悩みを抱えた若者の物語)という意味ではとても共通しているかと思います。
これをパソコンゲームに移植したのが、のちの同級生やときめきメモリアルといった恋愛シミュレーションゲームだったと言えるでしょう。
という意味では、ラブコメマンガの到達点がこのきまぐれオレンジ☆ロードだったように思います。
アニメ版との違い
アニメは1年間、日本テレビ系列で放送されています。
マンガ版とは完全に同じではなく、最終回もマンガのそれとは一緒ではありません(マンガの終盤に出てくるタイムスリップのエピソードでアニメは終わりになる)
また、ストーリー展開も1話完結のような展開が多く、主人公の春日恭介の心情のモノローグが多いのが特徴です。
アニメ版は、マンガのファン向け、あるいは特定層向けに作られた作品で、それゆえに一般視聴者に向けた作品ではない、という印象があります(つまり、ファン層向け)
オタク的傾向
絵の特徴から、きまぐれオレンジ☆ロードはややオタク向け作品という色彩も帯びているように思われます(当時も現在も、オタク向け作品はメカと美少女、という強力な公式が存在するが、本作はメカは登場しない)
思春期特有の性の問題を扱っていることもあり、内容的には男性が好む内容に仕上がってもいます。
(タッチが一般向けであったのとは対照的)
一種、都市部のエスカレーター式の学校の内輪話・あるある話、という感もあります。
ファンは根強い
発行部数だけで見ると、この作品のコミックス累計発行部数は2000万部であり、ヒット作です。
その実績以上に、及ぼした影響は大きいです。
読者層が思春期の青少年だったのもそうですし、その後のマンガやゲームに繋がる型を示している点で、回顧される作品と言えると思います。
個人的感想
この作品は、家に一部がそろった状態でありました。
当時、私は小学生くらいで、このマンガに描かれる世界が遠い夢の世界のように光り輝いて見えました。
憧れ、といえます。
その後、私は成長し大学に通いますが、私が通った学校はエスカレーター式に内部進学してくる学生もいました。
その人たちの生態を見聞きしていると、まさにこのマンガのような世界でした。
ああ、実際にあるんだなぁ…
それが感想です。
もちろん、閉じた世界なので、うまく立ち回れないと非常に苦労し、場合によっては暗黒の学生時代を送ることになりかねない、というデメリットもある、ということもあとで分かったのですが…
手に入りそうで手に入らない、だからこそ、もどかしくもあり、憧れる、そんな構図は、時代が高嶺の花のようなアイドルを求めるのではなく、素人っぽいフレンドリーなアイドル像を求めていった流れと一致しているようにも思います。
ラブコメとして1つの型であり、貴重な資産として、残っていく作品です。