天国にいちばん近い島
『天国にいちばん近い島』は、作家の森村桂が1966年に発表した旅行記です。
亡くなった作家の父親が著者に幼い頃教えてくれた「天国にいちばん近い島」を実際に探しにいく、それが物語の背景であり、実際に著者は海外に出かけることが困難だった時代に貨物船に乗ってニューカレドニア島へと旅立ち、現地で生活して帰国する、その内容を記録した本です。
1966年発表当時
1966年というと、昭和41年です。
高度成長が始まった頃(所得倍増計画が発表されたのは1960年)であり、まだ海外旅行は一般的ではありませんでした。
そんな時代に、若い女性が資金をかき集めて貨物船に乗り、ほとんど誰も知らない南の島へ旅に出かける、という内容がとても斬新でもあり、この本は一大ブームを巻き起こします(200万部を超えるベストセラー)
旅行中、著者は盲腸にかかったりもしますが、現地の人に治療代を負担してもらったことも記されています(現地の人にとってかなりの大金なのに、その人は「あとで日本まで返しにいく」と言って気前よく著者にくれた)
様々な困難に見舞われながらも、1人の旅行者として見た異文化が事細かく描かれている本となっています。
映画「天国にいちばん近い島」
この作品は、後に大林宣彦監督により映画化されました。
本の内容とは違うストーリーですが、映画では原田知世演じる主人公が旅行を通して知り合った現地の日系人と心の交流を通して、人間的に成長する姿が描かれています。
この本との出会い(図書館に放置された文庫本)
私がこの本に出会ったのは高校1年生の時です。
学校の図書館に、カビが生えた状態で本棚に並んでいました。
貸し出し履歴を見ると、かなり昔にものすごい回数貸し出された跡があったのですが、最後に貸し出されたのは7~8年前、当時誰も見向きもしない、という状態でした。
この本が昔、ベストセラーだったことも知らない私は、なんとなく興味を持ち、借りて読みました。
正直、私もこの本のファンになりました。
どこにでもいる普通の若い女性が、困難にも負けず、海外に飛び出していく、というストーリーも面白いのですが、著者の文明を見る目がまた面白く感じました。
海外旅行につきものの現地で起こるトラブルもまた、一つ一つが面白い。
学校で習ったカタコトのフランス語しか喋れないのに、なんとなくフランス語が喋れる人のように現地で誤解されるエピソードがあったり、一時仲良くしてくれた日本人がいたのにその人たちが著者をただマスコット的に扱っていただけで関わりがぱたっと途切れてしまうエピソードがあったり、孤独感を感じたり、現地の人のあたたかさに救われたり…そんなことが事細かく記されています。
どちらかといえばミーハーとも言える若い女性の海外体験、だけでは収まらないものがあります。
時代は違いますが、海外へ憧れを持つ人、これから留学したいと思っている学生さんにはぜひ読んでいただきたい一冊です。