(写真は尾道です)
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大林宣彦の世界|理想の中に映画がある - Amazon生活 お得な利用方法について
映画「ふたり」は映画史に残る不朽の名作です!2020/06/30 23:15
この作品は、日本映画の名作の中でも10本のうちの1本に入るのではないか、と個人的には思っています。
この映画は、1人の少女の成長が、叙情的に描かれている作品です。
なお、ストーリーだけをみると、実際は不幸な映画かもしれません。
愛する者を失った悲しみから立ち直ろうとする、人間の強さ、美しさ、それが表現されています。
見終わったとき、映像として永遠に残された「個人的記録」とでもいうべき「古い写真アルバムをめくるような懐かしさ」が残る、大林作品のなかで1番の傑作だ、と思います。
映画「ふたり」
映画「ふたり」は、大林宣彦監督により1991年に映画化されています。
「新・尾道三部作」の1作目の作品とされており、撮影は広島県の尾道で行われています。
ストーリーは、なんでもできる才気溢れる姉の千津子と、周りからグズと言われるマイペースな妹の実加を中心とした話です。
なお、千津子は事故死しており、映画の冒頭ではそのショックから家族がようやく立ち直ろうとしています。
映画を通しても千津子の残した存在の大きさが伺えるのですが、その死を家族が受容していく、という要素もあります。
物語は、何もできないグズだった実加が、千津子が生前できたことを一つずつできるようになっていくことを通して成長していく過程を描いていきます。
千津子が演じて伝説とまで評価される演劇のヒロインにも実加は選ばれるのですが、実加は諸般の事情で辞退します(「裏方として天井裏から舞台を見つめて「これが私の居場所」とも言っている)。
映画は、次第に実加も成長していき、千津子との対比の中で生きてきたことから脱して実加は自分自身を生きていく、という終わり方をします(その過程には、家庭崩壊の危機なども訪れ、ストーリー自体は必ずしもハッピーエンドとはいえないまま)
失った千津子の存在を受容し、亡くなった事実を受け止めていく過程は、悲しみを受け入れる過程であり、困難が伴う未来へ向けて歩み出していこうとする(映画序盤とは全く違う)実加の姿は、伸びやかな美しさも感じさせ、希望を感じさせます。
謎解き(ネタバレ)
映画では、説明はされていない暗示がいくつか出てきます。
亡くなった千津子は幽霊として実加にしか見えない姿で登場します。
その千津子は生前、恋仲だった若者(実加とも交際する)とかなり深い仲にあったのではないか、と伺わせるシーンがあります(セリフで処理されているだけ)
もしかすると、妊娠し、中絶したのではないか、とまで思うのですが…映画では説明はありません(セリフで色々あったことは伺える)
エンディングの直前では、実加は小説を書き始めます。
万年筆で「ふたり」と題名を書くところまでしか映像ではわかりません。
実加は最後、小説を書くのは「お姉ちゃんを忘れないため」と言っています。
過去を過去として整理することにより、未来へと踏み出していく、その先には新しい喜びも悲しみもあるだろうけれど、新しい自分はそれを生きていくんだ、そんな決意の代わりに、姉の弔いとして小説を書いている、のかもしれません。
実加が書いた小説「ふたり」の内容が映画になっている、というのは誤読かもしれませんが、そんな可能性を思わせるための伏線なのかもしれない、と思わせてくれます。
また、エンディングシーンの人物は、後ろ姿が実加ではなく千津子にそっくりです(亡くなったはずの千津子が歩いていく?)
千津子と実加は実は同じ人物だったのでしょうか?
謎は深まります…
永遠にフィルムに刻まれた美しき世界
私はこの映画を都合10回以上観ています。
年齢を重ねたことでわかるようになったこともあります。
男女間の心の距離とでもいうべきものが、映画では目配せや佇まいで表現されていますが、これは昔、中学生で観たときには私はわかりませんでした。
(昔の恋人と仲良くしている妹を目の当たりにして複雑な心境に陥る幽霊の姉の心境が表現されているシーンが実際にあります)
ストーリーだけを取り出してみれば決してハッピーエンドではないですし、悲しい事件が起きたりもしますし、別れもあります。
そうした中でも日々は淡々と続いていく。
人は過去も大事だが、留まっていてはいけない、ということかもしれません。
映像として美しく、大人へとなっていく少女の美しさが永遠にフィルムに刻まれた、思い出に残る映画です。