購入は入り口
ものを売る側にしても、買う側にしても、購入した時点から先のことについては、それぞれ思惑があるかと思います。
その意図はお互いの胸の内にありますが、それを一方が強制することはできません。
強制してああしろ、こうしろ、という状態は、売買ではなく、完全にコントロールしている状態であり、強制的な押しつけと同じです。
売る側にも自由があり、買う側にも自由があります。
売買とは、お金と商品を交換している行為なので、一種のお金を使った契約のようなものです。
根本部分はそれ以上でもそれ以下でもありません。
売る側としては、またきてもらわないと困る
商品を売る側の心理としては、ただ1回来てもらうだけではどうにもなりません。
不特定多数に販売する・しないに関わらず、長期的に繰り返し来店して商品を買ってくれるお客さんが増えてくれることが、売る側としては1番のメリットとなります。
他にも同業者はいますし、季節の変動、市場の需給バランスの影響など、環境が変動する要素がとても多いので、安定した経営基盤を築くことがものを売る側としてはとても大事になるからです(うまくいかなければ、経営が成り立たず生活できなくなります…)
扱う商品の性質や販売している側の考え方もありますが、何度も来店してくれる顧客の数が多く、その内容が充実していることを重視することは変わりがないはずです。
買う側としては、気持ちよく買いたい
買う側の真理としては、やはり損をしたくない、というのが1番です。
ここでいう「損」とは、お金のこともあれば、機会損失のこともあります。
商品そのものだけでなく、それに付け加えて得られる細かな情報(市場動向、実際に商品を扱っている側から得られる具体的な情報も含む)、あるいは故障した時のメンテナンスなど、いろいろな面を加味した上で得になる場所を欲しています。
どこにでも似たような店はありますが、馴染みのあるところで購入しようとするのは、商品そのものの品質を超えた価値(話し相手、顔馴染み、半ば友人の関係になっている場合はそれを維持しようとする)がそこにあると認めているからです。
お金を支払う代わりに商品を受け取る(あるいはその逆)という関係が基本ではありますが、その上に築かれた信用も大きな要素となります。
お金を払う、ということは、それだけの価値を相手に施した、というような一種の快楽が伴う行為、ということもあるでしょう。
買う側としては、自分の中にある問題を解決してくれる(かもしれない)という期待があって商品を購入します。
お金を稼ぐということは大変なことなので、その対価として得たものをわざわざ支払って、目の前にある商品を買おうとするということは、それだけの理由がそこにあります。
ですから、まずはその理由を満たしてくれるかどうかが問題であり、さらにどうせ買うなら「気持ちよく買いたい」と願うものです。
売る側としては、そうした諸所の要因が重なっていくことで「損をしていない」「得をした」「気分がいい」という状態を相手に与えることができれば、継続して来店してくれるお客さんを確保していける可能性が高くなります。
買う側としては、満足感を得られることが大事となります。
商品は買った後のメンテナンスが大事
経営の神様と呼ばれた松下幸之助氏は「商売戦術30箇条」を残しています。
商売は世のため人のための奉仕にして、利益はその当然の報酬なり。
お客様をじろじろ見るべからず。うるさく付きまとうべからず。
店の大小よりも場所の良否、場所の良否よりも品の如何。
棚立て上手は商売下手。小さい店でゴタゴタしている方がかえってよい場合あり。
取引先は皆親類にせよ。これに同情を持ってもらうか否か店の興廃のわかるるところ。
売る前のお世辞より、売った後の奉仕。これこそ永久の客を作る。
お客様の小言は神の声と思って何ごとも喜んで受け入れよ。
資金の少なさを憂うなかれ。信用のたらざるを憂うべし。
仕入れは簡単にせよ。安心してできる簡単な仕入れは繁盛の因と知るべし。
百円のお客様よりは一円のお客様が店を繁盛させる基と知るべし。
無理に売るな。客の好むものも売るな。客のためになるものを売れ。
資金の回転を多くせよ。百円の資本も十回まわせば千円になる。
品物の取り換えや返品にこられた場合は、売ったときよりも一層気持ちよく接せよ。
お客の前で店員小僧をしかるくらいお客を追い払う妙手段はない。
良き品を売ることは善なり。良き品を広告して多く売ることはさらに善なり。
自分の行う販売がなければ社会は運転しないという自信を持て。そしてそれだけに大なる責任を感ぜよ。
仕入先に親切にせよ。そして正当な要求は遠慮なく言え。
紙一枚でも景品はお客を喜ばせるものだ。付けてあげるもののない時は笑顔を景品にせよ。
店のために働くことが同時に店員のためになるよう、待遇その他適当の方法を講ずべし。
絶えず美しい陳列でお客の足を集めることも一案。
紙一枚でも無駄にすることはそれだけ商品の値段を高くする。
品切れは店の不注意、お詫びして後「早速取り寄せてお届けします」とお客の住所を伺うべきである。
正札を守れ。値引きはかえって気持ちを悪くするくらいが落ちだ。
子供は福の神。子供連れのお客、子供が使いにきての買い物にはとくに注意せよ。
常に考えよ今日の損益を。今日の損益を明らかにしないでは寝に就かぬ習慣にせよ。
「あの店の品だから」と信用し、誇りにされるようになれ。
御用聞きは、何か一、二の品物なり商品の広告ビラなり持って歩け。
店先を賑やかにせよ。元気よく立ち働け。活気ある店に客集まる。
毎日の新聞広告は一通り目を通しておけ。注文されて知らぬようでは商人の恥と知るべし。
商人には好況不況はない。いずれにしても儲けなければならぬ。
ここには、経営に際してとてもためになる教訓・腎髄が述べられています。
やはり、売ったら売りっぱなしではいけない、ということを松下氏も述べていますし、来店してくれたお客さんを逃さないためにどうするべきか、ということを述べています。
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良い行動も悪い行動も、あとで自分に返ってくる
私の実感では、やはり自分が行った行動は、自分に返ってくるものです。
特に、商売の場合、それが顕著に出てきます。
それは、その反応の出るスピード、あるいは反応そのものが目に見えて現れやすい、ということです。
顧客対応の悪い商店主の店が長続きしている、という例を、私はあまり知りません(商店主の人格ではなく、顧客への対応のことを言っています)
飲食店ならば、手を抜けば味に反映されて顧客が離れていってしまう、ということもあります。
信用を築くには長い時間がかかりますが、失うのは一瞬です。
常に気を張っている、という状態に置かれます(これも実感です…)
ですが、人に見られている、という気持ちがあるからこそ、それが良い方向に作用してくれれば、その人の人格にも影響を与えていき、結果として性格の良い人間が出来上がる、ということかもしれません。
ものを売る行為は、常にトラブルと隣り合わせです。
だからこそ、真剣に物事に取り組む必要がある、ということになりそうです。